ゴルフクラブ材料の開発(タイガーウッズとの出会い)

その後、色々な開発をやりましたが、そんな中で最も面白かった開発があります。一般的にチタンと言えば皆さんは何を思い浮かべますか?メガネ?腕時計?ゴルフクラブ?どれも携わりましたが、ゴルフクラブが最も思い出深いです。1999年当時、住友金属ではチタン合金事業をやめてはどうか?と言う議論が有りました。単純に赤字だったからですが、担当としては何とかして続けたいと思っていました。そんな時救世主となったのが、ゴルフクラブでした。ひょんな事からつるやゴルフさんの開発担当の方と親しくなり、ゴルフクラブに合うチタン合金を紹介する様依頼を受けました。住友金属にはSSAT2041というβ形チタン合金が有り、未だ何処のゴルフクラブメーカーも使っていませんでした。そこで、その2041を紹介したところ、台湾のOEM先のゴルフクラブメーカーに技術協力して欲しいとの事。当時、全体が鋳造のドライバーヘッドは有りましたが、ヘッドの大型軽量化に伴い、鍛造あるいはプレス板曲げフェースと鋳造ボディーの溶接構造への移行期であり、薄肉化が求められた事からβチタン合金が注目されていましたが、扱いが難しくその技術を習得しているメーカーは多く有りませんでした。

1W(ドライバー)フェース溶接直後

こちらもゴルフクラブの開発はやったことが有りませんでしたから、お互い賭の部分は有りましたが、2041の独占供給契約を結び開発に着手し始めました。β形チタン合金はチタン合金の中では冷間加工性に優れているため、OEM先では2041の板を冷間プレスで成形しようとしていましたが上手くいかないとの事で、技術支援に来て欲しいとの依頼がありました。人生初の海外出張は台湾かと思っていたところ、なんと行き先は中国黒竜江省ハルピンとの事。何でも技術提携しているハルピン工業大学でプレス試験しているが、5000tonかけても思った形状に出来ないとの事。行ってみると、潤滑剤も使用せずただ5000tonかけて押しているだけでした。そこで準備していた潤滑剤を使用すると1000ton以下の荷重で目的の形状に成形出来た事にびっくりされたのを覚えています。それ以降、多い時は1年の半分以上を台湾、中国で技術支援する生活が続きました。

その様な中で、NIKE製のゴルフクラブ(現在ではNIKEはゴルフクラブから撤退してしまいましたが)に2041が採用される事になりました。当時はNIKEと契約していたタイガーウッズの全盛期で、そのタイガーが2041製のゴルフクラブ(ドライバー)を使う事にになりました。

NIKE製イグナイト

タイガーはその打感が余程気に入ったのか、他のチタン合金製のクラブは使おうとしなかった様です。タイガーに言わせると(直接聞いた訳ではなく、ドライバーの開発担当者から聞いたのですが)「狙った所にボールを置く様に打つ事が出来る」そうで、未だに狙った方向にボールを打てた事が無い筆者には一生判らない感覚ですが。

しかし、タイガーがボールを飛ばし過ぎた(パー4を1オンしてしまう)せいか、ゴルフクラブの反発係数の規制が出来てしまい、2041の様なβチタン合金は殆ど使われなくなって行きました。(それでもタイガーは、2041製のドライバーフェースの厚みを増して軽さを犠牲にし、反発係数を小さくしてでも、その打感を選んだそうですが)

反発係数に規制がかかった事で、材料開発の幅が極端に狭くなり、ゴルフクラブ材料開発からも次第に離れる様になってしまいましたが、タイガーからお礼のサイン入り写真を貰った時(これも直接では無くクラブの開発担当者からですが)は嬉しかったですね。

これは、プライベートで台湾旅行した時の写真です。

台湾東部花蓮の風景

台湾は私の第二の故郷の様な存在になりました。

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